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高松地方裁判所 昭和61年(わ)539号 判決 1987年5月19日

本店所在地

高松市古新町四一番地五

株式会社たまや

右代表者代表取締役 平尾和義

本籍

高松市錦町二丁目一番地

住居

同市藤塚町一丁目一六番六号

会社役員

平尾和義

昭和八年二月一二日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官饒平名正也出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人平尾和義を懲役一一月に、被告会社たまやを罰金四〇〇〇万円にそれぞれ処する。

被告人平尾和義に対し、この裁判確定の日から四年間、右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社たまやは、肩書本店所在地に本店を置き、遊技場の経営を目的とする資本の額一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人平尾和義は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、右被告人は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上の一部を除外して簿外預金を蓄積する等の方法により所得の一部を秘匿した上、

第一  昭和五七年一〇月一日から同五八年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が六億八五五九万〇八七〇円であったにもかかわらず、同年一一月三〇日、高松市天神前二番一〇号所在の高松税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五億五三八六万〇五二五円でこれに対する法人税額が二億二四六四万六六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六二年押一七号の符号一)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の方法により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二億七九九七万三二〇〇円と右申告税額との差額五五三二万六六〇〇円を免れ、

第二  昭和五八年一〇月一日から同五九年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が六億三九七五万四八六二円であったにもかかわらず、同年一一月三〇日、前記高松税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四億六九一八万七六六六円でこれに対する法人税額が一億九五八〇万五六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の符号二)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二億六九六六万一一〇〇円と右申告税額との差額七三八五万五五〇〇円を免れ、

第三  昭和五九年一〇月一日から同六〇年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が六億五一二四万七五八四円であったにもかかわらず、同年一一月三〇日、前記高松税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五億七六二六万九九三三円でこれに対する法人税額が二億四一〇八万五四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の符号三)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二億七三五五万〇五〇〇円と右申告税額との差額三二四六万五一〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人平尾和義の当公判延における供述

一  同被告人の検察官に対する供述調書三通並びに大蔵事務官に対する昭和六一年三月三一日付け、同年四月一日付け、同月二日付け、同月一四日付け、同月二五日付け、同年五月六日付け、同月一九日付け、同年六月一三日付け、同月一六日付け、同月二五日付け及び同月二六日付け各質問てん末書

一  同被告人作成の上申書三通

一  和田森時夫の検察官に対する供述調書並びに大蔵事務官に対する昭和六一年三月二九日付け、同月三一日付け及び同年六月三日付け各質問てん末書

一  中谷志津枝の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  好江正和の検察官に対する供述調書並びに大蔵事務官に対する昭和六一年三月二五日付け、同月三一日付け、同年四月二日付け及び同年六月四日付け各質問てん末書

一  谷カズ子の大蔵事務官に対する昭和六一年四月二日付け質問てん末書

一  羽原實の大蔵事務官に対する昭和六一年四月九日付け及び同年六月二〇日付け質問てん末書

一  小川寛、永田安男及び真野晃(三通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  和田森時夫(昭和六一年五月一五日付け)、好江正和(同日付け)、羽原實(同月一四日付け)、平尾勘市及び河瀬一紀作成の各上申書

一  吉田哲男、浅野房一、藤井敏広、小倉敏男、小笠司朗、山中健二及び津田恭男作成の各申述書

一  真野晃作成の「平尾和義氏が購入した割引債で私が取扱ったもの」と題する書面

一  吉田哲男(五通)、長尾宏、藤原清(四通)、川崎武夫(二通)、臼井良弘、真砂野孝雄(二通)、小林勝昭、棚村治敏、森近重夫及び高吹二郎作成の各証明書

一  小池和子(株式名沖電気工業の分)、小村孝、水谷嘉津子、厚海馨(株式名ジャスコ株主氏名平尾慶子の分、株式名日本ビクターの分及び同TDK昭和六一年五月二三日付けの分各一通)、伊藤明(株式名旭硝子の分、同三菱レイヨンの分及び同日本電子の分各一通)、古家節子ほか一名(株式名小西六写真工業の分、同豊田通商の分、同池上通信機の分及び同トヨタ自動車の分各一通)、金子雅俊、松葉明男(三通)並びに宮尾二三雄作成の「株式の異動及び支払配当金額照会に対する回答」と題する各書面

一  内田奎吾作成の「取引内容照会に対する回答」と題する書面

一  大蔵事務官田中廣海作成の脱税額計算書三通

一  登記官小沢康夫作成の登記簿の謄本

一  大蔵事務官土居豊作成の臨検てん末書

一  同多田増廣作成の検査てん末書二通

一  国税査察官林澄夫、同田中廣海(二通)、同改田典裕及び同岡田知美作成の各査察官調査報告書

一  大蔵事務官田中廣海作成の現金調査書、定期預金調査書、割引債券調査書、仮払金調査書、貸付金調査書、未収金調査書、未払金調査書、売上調査書、公租公課調査書、人件費調査書、受取利息調査書及び償還差益調査書

一  押収してある法人税確定申告書三綴(昭和六二年押第一七号の一ないし三)、総勘定元帳三綴(同号の四ないし六)、補助帳三綴(同号の七ないし九)及び機械グラフ六綴(同号の一〇ないし一五)

(法令の適用)

被告人平尾和義の判示第一ないし第三の各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、右各違反行為は、被告会社の代表者が同会社の業務に関してしたものであるから、同法一六四条一項により同会社に対しても同法一五九条所定の罰金刑を科することとし、同会社については情状により同条二項を適用し、被告人平尾和義については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法四八条二項により右各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で、被告人平尾和義については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内でそれぞれ処断することとし、同被告人を懲役一一月に、被告会社を罰金四〇〇〇万円に各処し、被告人平尾和義に対しては情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、三事業年度にわたり売上げの一部を除外する方法により合計三億七七二七万五一九二円の所得を秘匿して合計一億六一六四万七二〇〇円もの巨額の法人税を免れたという大規模な脱税事犯であること、犯行の動機も、企業防衛特に外国人経営の同業者との競争上新規出店等のための裏金が必要であったというのであるが、被告会社では昭和五六年四月ころ、フイバー機を導入して以後売上げが急増し、幹部社員に対する特別賞与も、他の一般中小企業の場合と比較して格段に優遇されていることや、また、被告人に対する貸付金ということで会計処理がなされてはいるが、病気の妻を慰めるためとはいえ、五七〇万円もの毛皮コート、五〇〇万円ものダイヤの購入をしていること等、被告会社の経理内容、資金の運用状況に照らすと、被告会社の存続維持のための裏金づくりが必要であったとしても、本件のような大がかりな脱税までしなければならなかったとは認め難いこと、その他、国家財政が苦しい状況下で、この種事犯が、健全な国家財政の運営に著しい支障を生ぜさせるものであること、また、現在納税義務者の間で徴税率の不公正が問題となり、特に一般給与所得者の税に対する不公平感が高まっていること等に鑑みると、本件のような脱税事犯は決して軽視できないものであり、この点、被告人及び被告会社の刑事責任は重いと言わねばならない。しかし、本件の逋脱率は平均すると二〇パーセントに満たない比較的低いものであること、修正申告を行い、本件逋脱額をはじめ延滞税、重加算税等も納付済みであること、被告人には前科がないこと、本件を深く反省し、今後毎事業年度に一〇〇〇万円ずつを社会福祉事業に寄付することを被告会社の取締役会で決議していること、その他被告人の経歴、家庭事情等被告人に有利な事情も存するので、これらを総合考慮して、主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 大野孝英)

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